TDBR は、『新英語辞典(基本語彙習得のための新規オンライン英和辞典)』
の作成に取り組んでいるチームです。現在は以下の三人のメンバーが、
それぞれの本業が許す範囲で活動しています。
澤田由紀子(TDBR代表・会社員)
池内利津子(大学講師)
広田真紀子(主婦)
私たちの出発点は、ある高校生の、「単語を覚えるには繰り返ししかないの?」という素朴な問いかけでした。
十年前、まだ学生だったメンバーの一人が、家庭教師として教え始めた高校二年生S君から受けたものです。そのとき彼は、
何度繰り返しても意味を忘れてしまうのに、教科書には新しい単語が続々と出てくるという状況に悩んでいました。
「単語には英文法のような新鮮さもないし、暗記できた時にも数学の問題が解けた時のような達成感がない」とも言っていて、要するに、
「面白くないから忘れてしまう」と分析していたそうです。
当時私たちは、ある気楽な英語同好会の仲間だったのですが、英単語を覚えるのが大変だと悩む高校生がいることを聞き、大いに刺激を受けました。というのは、
私たちのそれぞれが、自分の受けた英語教育の中で欠落していたのが、語源理解に基づいた系統的な語彙指導だったのではないかと感じていたからです。
語彙習得法については、すでに明治時代から、語源の知識を利用することの重要性は指摘されていました。それなのに、
この意識を持っている高校教師は多くはないようです。ところが一方では、『試験にでる英単語』の森一郎先生や、『英単語に強くなる』(岩波ジュニア新書)の
林信孝先生のような、語源を知らずに単語の意味を暗記しようとしても無理だという考えの先生から、合理的な語彙習得法を教えてもらえる
高校生もいるわけです。たとえば、 deprive と derive は間違いやすいから気をつけて、と言うだけの先生と、語源の解説をつけて両者を区別するコツを伝授して
くれる先生とでは、生徒の単語力にやがて大きな差が出てくるのは歴然としているでしょう。
私たちは大学時代に、語源の知識は、英語やその文化についての理解を深めさせるものであり、また単語暗記法にも応用できるものであることを知りました。以来、
英語を専門とするわけではないのですが、語源探求を楽しみの一部としながら英語を学んできました。ですから、このS君にはぜひ、語源理解を土台に
して個々の英単語の記憶を強化させ、波及効果で系統的にも語彙を増やす、というやりかたを伝えるべきだということになったのです。
私たち三人は同好会の延長のようにチームを組んで、教科書に出てくる新出語の語源解説、派生語、同源語、例文などを盛り込んだ、教えるための資料を作りはじめました。
この作業は、実際に教える時間の何倍もの時間がかかったのですが、長続きしたのは、自分たちの資料が、いつか他の高校生、大学生、社会人など、多くの人の役に立つか
もしれないという思いが生まれたからです。『 新英語辞典 』 の原型はこのときの教授資料です。
その後の私たちの試行錯誤は、文字通り汗と涙と笑いのストーリーになってしまうのですが、一人の高校生のために作成された英単語帳は、
何度かの「モデルチェンジ」を重ね、対象も、高校生から大学教養課程程度に広げられたものになりました。
ちなみにS君は、苦手意識がなくなったおかげで英語学習に意欲的になることができ、その甲斐があって第一志望の東京大学に無事合格しました。
「英単語の暗記が楽しくなったのが良かった。語源がわかれば必ず覚えられるというわけではないけど、わけの分からないものを暗記するより、
理屈があるものを暗記して行くほうが気分がいい。先生に出会えてラッキーだった。」というのが、彼の感謝の言葉でした。
S君は無事に卒業し、
志望の分野の研究所に入り、博士号も取得しました。今では英語で論文を書き、内外の学会での研究発表も英語で行うことがあるというのですから感慨深いものがあります。
なお、TDBR というのは、簡潔なグループ名があれば便利なので、仮に使っている名称です。
T は
team の t で、あとの三文字は、 メンバーの呼び名を並べたものです。( D は、
プロ野球中日ドラゴンズの D ともかけてあるのですが。 )
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