=====用語解説========= 印欧祖語 Proto-Indo-European
印欧語族 (インド・ヨーロッパ語族)に属する諸言語の共通の祖先語。
印欧語族は今日では世界最大の語族であるが、
もともとは紀元前2500年、あるいはそれ以上さかのぼるともいわれる先史時代に、これもまたはっきり特定できないある地域(北ドイツ説、メソポタミア周辺説、
南東ヨーロッパ説などがあるという)で暮らしていた、比較的小規模な民族の言語が発達したものと考えられている。つまり印欧祖語は、この人々が分化して、
各地に進出する以前に話されていたと推定される言語のことである。
印欧祖語は、記録などによって実在が証明されている言語ではなく、実在の印欧語族の諸言語から、厳密な比較言語学的手続きによって帰納的に推定される言語である。
印欧祖語の語には、文献上に実証されたものではなく、理論的に推定された再建形であることを示すために、* を付けるのが慣習になっている。
印欧語やその祖語の本格的研究が進められるようになったきっかけは、1786年にイギリス人ジョーンズ が、
カルカッタのアジア協会で行った講演の中の次の発言である。
サンスクリットはその古さにもかかわらず、驚くべき構造を持っている。ギリシア語より完全で、ラテン語より豊かで、そのいずれよりはるかに精巧なのだ。 しかもこの二つの言語とサンスクリットには、動詞の語根においても文法の形式においても、偶然の産物とは思えない類似性がある。この類似性は非常に顕著なもの なので、どんな言語学者でもこの三つの言語を調べたら、それらが恐らくもはや存在していない、ある共通の源から発したものだと信じるようになるだろう。これほど 確かなことではないが同じような理由で、ゴート語とケルト語も、非常に違った言語と混じり合ってはいるが、ともにサンスクリットと同じ起源を持つと考え られ、また古代ペルシア語も同じ語族に加えられると思われる。
(英語原文)
18世紀は、偏見や迷信を人間の理性で打破しようとする啓蒙主義の時代である。言語の起源についても、ヘブライ語起源論などの既成観念にとらわれずに、合理的精神で
これを探求しようという気運が高まっていた。また、海外貿易や植民地の拡大にともない、広く世界の言語を知ることも時代的要求であった。ジョーンズの発言は、
同時代の言語研究者たちに大きな暗示を与え、ここから比較言語学という新しい学問が生まれ、目覚しい成果をあげることになった。ヨーロッパからアジアにいたる
広大な地域で使われているたくさんの言語が、印欧祖語という共通の祖先語から発達したことが明らかになっていくのである。