英文を読んでいる時に、この言葉はいつか辞書で調べたよなあ、だけど何ていう意味だったか思い出せない、という体験をしたことはありませんか。あるいは、
初めて見る語だと思っていたのに、辞書を引いてみたら以前調べたらしく、ちゃんと印が付いていたなんてことはありませんか。一度だけとは望まないにしても、
数度辞書で調べて意味を覚えたら、その記憶が確実に脳に定着にし、何度も何度も辞書を調べなおさずにすんだらどんなにいい
だろうかと考えたことはありませんか。
私たちは、英単語の意味を確実に覚えるためには、それぞれの単語の語源を知ることが重要な鍵になると考え
ています。語源が教えてくれる単語の文字通りの意味は、単語の意味そのものとは異なることが多いのですが、単語の意味が確実に記憶に定着するのを大いに助
けてくれるものなのです。
これは英語を学ぶ場合に限らず、外国人に日本語を説明するときにも当てはまります。わかりやすい例で説明しましょう。みなさんは「指圧」という語が、その
まま shiatsu として外国でも使われていることを知っていますか。まずは次の文を読んでください。子供向けの百科事典として定評のある
Oxford Children's Encyclopedia からの引用です。
この文では、「指圧」の具体的な説明に入る前に、shiatsu が finger pressure という英語に置き換えられています。finger pressure
は「指圧」の文字通りの意味ですが、これを読めば誰でも shiatsu について、「指を使って押す」という鮮明なイメージを持つことが出来ます。
finger pressure という訳語を示されることによって、shiatsu という語が、わけのわからない不思議な音の連続ではなくなり、意味のある言葉と
して外国人にも了解され印象づけられるのです。
そして次に、「理論的には鍼に似ているが、針は使わず、手を使って体の様々な部分に圧力を加える治療」という shiatsu の意味を理解しようとするときに、
この finger pressure が大切な
補助的役割を果たすことになります。このことは、引用文と、The name means‘finger pressure’in Japanese and の部分を削除した文を読み比べれば、はっき
りとわかるでしょう。
shiatsu は、Oxford Children's Encyclopedia だけでなく、Oxford English Dictionary という大辞典も含めて多くの英語辞典に収録されて
いますが、それらの説明文には、語源である finger
pressure が書かれていることが多いのです。またインターネット上の shiatsu 関連のサイトにおいても、たいていは shiatsu という語の説明
の中に finger pressure という語源を入れています。
やはり、初めて出会う外国語を記憶するときには、まず、その語の持つ字義的な意味を知り、耳慣れない音の連続を有意味なものとして
捉えかえし、具体的なイメージを持つことが重要であると、多くの人が感じているからではないでしょうか。
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さて、英語の語彙には夥しい数のラテン語が入っています。その中にはギリシャ語にさかのぼれる語もあれば、ラテン語から生まれた「子ども」の一人であるフラ
ンス語を経て、英語の中に取り入れられた語もあります。これらの大量の外来語は、本来は外国語ですから、英語を母語とする人々にとって、時には
shiatsu と同じように耳慣れない語なのです。
英語圏の子供たちは、このような外来語をどのように教えられるのでしょうか。先ほど使った Oxford Children's Encyclopedia を調べてみると、語源的な
説明がつけられている外来語がたくさんあります。いくつかあげてみましょう。
amphibians
Their name comes from two Greek words and means‘both ways of life'. This is because most amphibians start their lives in water and change
as they grow up, so they are able to live on land.
astronomy
Astronomy comes from two Greek words: astron meaning‘star’and nomia meaning‘arrangement'.
biodiversity
Biodiversity is a combination of two words:‘biological’(referring to living things) and‘diversity’
(meaning variety).
centipede
The name centipede means‘hundred feet'.
concrete
Concrete comes from a Latin word concretus, meaning‘grown together'.
decimals
The word‘decimal’comes from the Latin word decem, meaning‘ten'.
geometry
The word geometry comes from two Greek words : ge meaning 'earth' and metria meaning 'mesurement'.
この百科事典の編集者たちは子供たちに外来語を説明するときに、意味を教えるだけでは十分でないと考えているのです。意味を理解し記憶するための手段として、
聞きなれない語をわかりやすい英語に訳し換えて、つまり、語の文字通りの意味、語源的な意味を示しているのです。私たち日本人が漢字熟語の意味を習うときに、
先ずは、熟語を構成している個々の漢字の意味から説明されるのと似ていますね。語源を知ってイメージをつかみ、そのイメージに頼って
意味を覚えるという記憶法が有効であるのは、英語でも日本語でも共通するのです。
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ところで先ほどの shiatsu ですが、もし、説明する対象が日本語を学んでいる人たちなら、shi が finger、atsu が
pressure であると正確に言うべきでしょう。日本語を学ぶなら、shi をもとに、shidou「指導」、shiji「指示」、shimon
「指紋」、shitei「指定」などを、atsu をもとに、atsuryoku「圧力」、kiatsu「気圧」、teikiatu「低気圧」などを覚え
ていくという合理的なやり方を取り入れなければ、いつまでたっても満足な日本語力はつきません。
語源の知識を活用して組織的に語彙を増やすべきだということは、英語を学ぶ場合も同じです。
私たちが提案する 『新英語辞典』 では、同じ語源の単語を一つの表にまとめてありますから、語源つながりでパワフルに語彙を増やしたいという意欲的な人にとって大変便利だ
と思います。
例えば、上にあげたcentipede「百足、ムカデ」の centi の部分の語源は、ラテン語 centum = 100
ですが、これに由来する英単語は、cent、centennial、centigrade、century、percentage などで、これらの語は
<*dekm 表2> に収められています。
個別に考えるより、同語源の単語をいくつかまとめて覚えていく方が、個々の単語の記憶が相互に補強され合って効果的だということを、この
表 で実感できると思います。
centipede の後半部分の語源は、印欧祖語 の語根、
*ped- = 足 です。同じ語源の語には、pedestal、
pedestrian、pedigree、expedite、impede などがあります。どれもそれぞれ、「
足 」を手がかりにすると記憶しやすくなる言葉です。綴りからは想像しにくいのですが、pawn や impeach なども、この
グループに属する語です。さらに、pilot、podium、octopus、trapezoid、tripod なども、語源は「 足
」です。これらはギリシャ語を起源としていますが、大きく考えれば先にあげた pedestal や pawn と
同じグループです。
以上の語は、次の二つの隣り合った表に整理され一覧できるようになっています。
<*ped- 表1>*
<*ped- 表2>*
ところで、「語源から覚えられる英単語は、ラテン語やギリシャ語起源の語だけ」というようなことを聞いたことはありませんか。
わたしたちは、「語源の知識を活用する記憶法」はもっと広く適用できると考えています。上に上げた
<*ped- >の
表3は「ゲルマン系」の語を集めた表です。
foot (足) とfoot を要素にする語が整理してあり、更に、fetch (取って来る) や fetter (足かせ) など「足」に関連する語を
一緒に学べるようになっています。
<*ped- 表3>*
外来語ではない英語の本来語の多くも、語源ごとに学べば確実にかつ効率的に記憶できることは、次の表でも実感できます。
<*drenkan >*
語源を参照するやりかたを遠回りだと感じている人も、少し高い目標を置いて英語を学んでいけば、丸暗記的に単語を覚えることに
限界を感じる日は必ず来るでしょう。
語源の知識の重要性を指摘した先駆者たち
語源の理解が暗記に応用できない事がある、ということについて
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